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長崎地方裁判所 平成元年(レ)3号 判決

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

主文同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人は、割賦販売のあっせんを業とする会社である。

2  被控訴人は、昭和六〇年五月一九日、控訴人が訴外サン・ラメール株式会社から下着一式を金一三万円で購入するにあたり控訴人との間で左記立替払契約を締結した。

(一) 被控訴人は、控訴人にかわり金一三万円を訴外サン・ラメール株式会社に立替払する。

(二) 被控訴人の控訴人に対する顧客手数料は金二万〇二八〇円である。

(三) 控訴人は、被控訴人に対し、右(一)(二)の合計金一五万〇二八〇円を次のとおり分割して支払う。

昭和六○年六月末日金五一八○円、同年七月から同六二年五月まで毎月末日限り金三七〇〇円宛計二四回に支払う。

ただし、同六〇年八月、同年一二月、同六一年八月、同年一二月は金一万五〇〇〇円を加算して支払う。

(四) 遅延損害金は年六パーセントとする。

3  被控訴人は、右約定に基づき昭和六〇年五月三〇日訴外サン・ラメール株式会社に対し金一三万円を立替払した。

4  よって、被控訴人は、控訴人に対し、立替払契約に基づき立替金残金一一万五三〇〇円及びこれに対する最終弁済期日の翌日である昭和六二年六月一日から完済に至るまで約定損害金利率年六パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項は認める。

2  同2項は否認する。

立替払契約が成立するためには、少なくとも立替払契約の重要な部分、すなわち購入者が購入した商品の代金を信販会社が一括して立替払し購入者は信販会社に立替払金に手数料を加えた額を分割払いするという点について、当事者の意思の合致が必要である。ところが、控訴人は本件立替払契約締結にあたり、割賦金は全て訴外林喜美子が支払うものと考えていたのであって、控訴人に割賦金支払の内心的効果意思がなかったことは明らかである。

また、クレジット契約における売買契約と立替払契約は、形式的には別個独立の契約であるが、それが一体としてクレジット取引という消費者信用販売形態を構成している以上、不可分一体のものとして把握すべきであり、売買契約が成立していない以上、立替払契約も当然不成立と解すべきである。本件においては、売買契約は訴外林と訴外サン・ラメール株式会社との間に成立しているのであり、同訴外会社と控訴人との間には、本件立替払契約が前提とする下着一式代金一三万円の売買契約は存在しない。したがって、右売買契約の存在を前提とする本件立替払契約が成立する余地はない。

3  請求原因3項は知らない。

三  抗弁

1  立替払契約の錯誤による無効

控訴人は、訴外林と訴外サン・ラメール株式会社との間の売買契約を前提とする本件立替払契約に自己の名義を使用することを承諾したものであるけれども、控訴人は、販売担当者訴外井上ケイ子及び訴外林から、控訴人名義で立替払契約を締結しても、被控訴人に対する支払いは右訴外林の責任において行い、仮に同人が支払いを遅滞させた時は、右訴外井上において責任をもって支払いをさせる旨を告げられた結果、これを信用し、被告自身に支払いを請求されることはないと誤信して名義使用を承諾したものである。かかる事情の下になされた控訴人の名義貸与を承諾する旨の意思表示は、錯誤により無効である。

2  売買契約の虚偽表示による無効の抗弁

(一) 控訴人の訴外サン・ラメール株式会社は、前記1のとおり下着一式を買うのは訴外林でその代金も訴外林が支払うということであったので、外観上、控訴人が下着一式を代金一三万円で買う旨の売買契約を仮装することを合意した。

(二) 控訴人は、販売業者訴外サン・ラメール株式会社に対して、右売買契約の通謀虚偽表示による無効を主張しうるから、割賦販売法三〇条の四に基づいて、右無効事由をもって被控訴人に対抗する。

3  同時履行の抗弁

控訴人は、売買契約上の商品の引渡を受けていないので、同法同条の規定に基づき、被控訴人に対し、商品の引渡を受けるまで、立替金の支払拒絶をもって対抗する。

四  抗弁に対する認否及び被控訴人の主張

1  抗弁1は否認する。

控訴人の主張する錯誤は、動機の錯誤にすぎない。

2  抗弁2について

割賦販売法三〇条の四の抗弁権の接続を認める実質的な理由は、割賦購入あっせん業者が購入者に対し、加盟店契約を結んでいる販売業者をあっせんしている点にあるから、購入者が作出した一方的事由に基づく購入者と販売業者間の通謀虚偽表示は、抗弁事由に該当しない。

3  抗弁3について

売買契約がないのに、あるものと装って立替払契約をしておきながら、その商品の引渡がないことをもって抗弁とすることは、信義則上、許されない。

五  再抗弁(民法九四条二項)

加盟店は、信販会社の代理人ではないし、信販会社と加盟店とは相互協力関係にあるとしても、独立した地位にある。被控訴人は、控訴人と訴外サン・ラメール株式会社との売買契約が虚偽であることを知らなかった。したがって、被控訴人は、民法九四条二項にいう善意の第三者である。

六  再抗弁に対する控訴人の主張

被控訴人は、民法九四条二項の第三者ではない。

本条項にいう第三者とは、虚偽の意思表示の当事者又はその一般承継人以外の者であって、その表示の目的につき法律上の利害関係を有するに至った者をいうが、代理人が虚偽表示をした売買契約における本人は、虚偽表示当事者から独立した利益を有する法律関係に入ったとはいえないから、本条項の第三者に当たらない。ところで、クレジット契約締結において、加盟店は立替払契約申込の意思表示の受領権その他の権限をもつ被控訴人の代理人と評されるから、被控訴人は、本条項の第三者ではない。

仮に、加盟店が被控訴人の代理人でないとしても、加盟店と被控訴人が経済的に一体性を有する以上、被控訴人は加盟店から独立した利益を有せず、本条項の第三者とはいえない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1項の事実は当事者間に争いがない。

二  〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。

1  控訴人は、昭和六〇年三月に高校を卒業したばかりで、医院に勤務しながら看護学校に通学する満一八歳の未成年者であったが、同年四月一七日、下着販売の訴外サン・ラメール株式会社(その前身はファンデーションマルコであり、以下「訴外販売会社」という。)の訪問販売員訴外井上ケイ子から勤務先の医院で職場の先輩であった訴外林喜美子(当時は「前田」姓であった。)ともども下着の購入を勧められ、訴外林は一三万円で下着二セットを、控訴人は六万五〇〇〇円の下着一セットを購入することとなった。そしてその代金の支払は訴外販売会社が加盟している被控訴人会社のクレジット利用による分割払にすることとし、控訴人はその場でクレジット契約申込書(甲第二号証)に署名を済ませ、下着一セットの引渡を受け、被控訴人会社に立替金の分割払を滞りなく完済した。

2  一方、訴外林は代金一三万円の支払についてクレジット契約申込書に記入して被控訴人に対し立替払契約の申込をしたが、被控訴人会社の信用調査の結果、訴外林が事故者(いわゆるブラック)であって立替払に応じられないと訴外販売会社に連絡がなされた。そこで、訴外井上が訴外林に連絡し、控訴人の名義を使用させて貰って控訴人に一三万円の下着を販売したようにして被控訴人に立替払契約を申し込むことを教示したことから、訴外林が控訴人に、自分の名前ではクレジットが組めないが、自分がちゃんと支払うから控訴人が買ったようにしてくれと言って頼み、また、訴外井上も控訴人に、訴外林の名前ではクレジットが通らないので名前を貸して欲しい、支払については訴外林が支払うし、支払が遅れたときには、自分が責任をもって訴外林に支払わせるようにするからと言って、控訴人の名義を使用することの承諾を求めた。控訴人は、以前にクレジットを利用したことがなく、名前を出すと請求を受けるかも知れないということを考えたこともないまま、職場の先輩の申出を断ることができず承諾した。

3  訴外井上は控訴人からその名義使用の承諾を得たので、訴外販売会社の事務員をして控訴人が一三万円の下着を購入したようにクレジット契約申込書に記入させて甲第一号証を作成し、被控訴人会社に送付した。そこで、同年五月一〇日、被控訴人会社の担当事務員杉原祐子が控訴人の勤務先に電話をして控訴人に下着購入の有無の確認をしたが、控訴人は、訴外井上から前記のとおり、迷惑が及ぶことはないから、クレジット会社からの確認の電話があったときには、控訴人が下着を買ったように答えて欲しいと頼まれていたので、下着を買った旨確認の電話に答えた。なお、被控訴人会社では、立替払契約の申込人が未成年者で契約申込書に保護者名の記入があるときは、通常連帯保証人でもある保護者に対して確認の電話をするのが一般であるが、本件においては、被控訴人会社の担当事務員杉原は、保護者の確認はとらなくてよい旨の訴外販売会社からの連絡による上司の指示で、控訴人にのみ確認の電話をし、控訴人の親権者であり契約申込書の連帯保証人欄の控訴人の母親には保証意思の確認の電話等はせずに、控訴人に対し、母親の連帯保証の意思確認をしたこととした。

4  被控訴人は、右電話確認の翌日の同月一一日、訴外販売会社に立替払承認の連絡をして、同月一九日付で立替払契約成立の処理をし、訴外販売会社に下着代金一三万円の立替払をした。訴外井上は、右立替払承認の連絡によって、既に訴外林に納品していた下着の代金につき、訴外販売会社に対し「ブラックのため山本春美出」との伝票処理をした。訴外販売会社においては、本件のように、下着を販売するとその場で直ちに商品を納品し、その後に立替払契約の手続をとり、被控訴人から立替払の承認を得られないときには、他人名義を用いて立替払契約を成立させて立替代金の支払いを得、訴外販売会社内ではブラックのため誰々出との伝票処理をすることが、本件の他にも行われていた。

5  訴外林の購入分についての立替払契約による被控訴人会社への支払いは、同年六月分から一〇月分までの五回については、訴外林が控訴人に支払金額の金員を持ってきたので、控訴人において自己の購入した分の支払と一緒の機会に控訴人名義で郵便振込により支払っていた。しかし、同年一一月分の支払からは、訴外林が同年一〇月末に勤務先の医院を退職し、右退職後、控訴人が訴外林と会うことがなくなって、訴外林から支払の依頼を受けることもなく、訴外林自らも支払わなかったので、その支払いが滞り、その結果、控訴人が被控訴人から催促を受けるようになり、本件訴訟に至った。

三  右認定の事実によれば、控訴人は、訴外林及び訴外井上の依頼により、訴外井上を通じて訴外販売会社に対し立替払契約について自己の名義使用の承諾を与えたものであり、さらに、控訴人は被控訴人からの意思確認の電話に対しても、売買の事実及び立替払契約申込についてこれを認める回答をし、その後、控訴人は訴外林から受領した分割金を控訴人名義の振込用紙で被控訴人に支払っているのであるから、訴外販売会社が控訴人の承諾に基づいて控訴人に代行して甲第一号証を作成したものということができ、甲第一号証の控訴人名義部分は真正に成立したことが認められる。

右のとおり真正に成立した甲第一号証によれば、控訴人が請求原因2項の立替払契約(以下「本件立替払契約」という。)の申込みをし、被控訴人会社がこれを承諾したことが認められ、本件立替払契約が締結された事実が認められる。

控訴人は、本件立替払契約締結にあたり、割賦金は全て訴外林が支払うものと考えていたのであって、控訴人には割賦金支払の内心的効果意思がないと主張する。前記認定の事実によれば、控訴人は、訴外井上及び訴外林から、控訴人名義で立替払契約を締結しても、被控訴人に対する支払いは右訴外林が行い、同人が支払いを遅滞させた時は、右訴外井上において責任をもって支払いをさせる旨を告げられた結果、これを信用し、本件立替払契約に自己の名義を使用することを承諾したものともいえるけれども、前記甲第一号証及び控訴人の被控訴人からの電話確認に対する回答からは、控訴人が、控訴人の名義で本件立替払契約の申込みをし、その旨確認の電話にも答えたと認められるのであるから、控訴人には、控訴人自身が契約の当事者になり、本件立替払契約を被控訴人と締結する意思があったと推認すべきであって、民法九三条本文により、控訴人に内心的効果意思がなかったとしても、それだけで控訴人と、被控訴人間の本件立替払契約の有効性を否定できない。また、控訴人は、立替払契約は売買契約と不可分一体で、売買契約が存在しない以上立替払契約も不成立と解すべきであると主張するが、両契約は経済的には密接な関係を有するけれども法的には別個独立の契約であるから、控訴人の右主張も採用しない。

四  そこで、抗弁1(立替払契約の錯誤による無効)について判断する。

前述のとおり、控訴人と被控訴人間に本件立替払契約が有効に成立しているというべきであり、訴外林において割賦金の支払をなすと考えていたことは、現実の支払を訴外林がなすものと考えていたとの趣旨と解され、右は単なる動機の錯誤であって、法律行為の要素の錯誤にはあたらないというべきである。

五  次に、抗弁2(売買契約の虚偽表示による無効)について判断する。

前記二の認定のとおり、訴外販売会社は、訴外林に一三万円の下着を売渡したが、訴外林については被控訴人から立替払を承諾されなかったことから、控訴人に、控訴人名義を使用して立替払契約を締結することの承諾を求めて承諾を得、控訴人に一三万円の下着を売ったことにして控訴人の名義で立替払契約を成立させたもので、真実は本件立替払契約に対応する下着一三万円の売買契約は、訴外販売会社と訴外林との間に締結されたものであり、控訴人と訴外販売会社との間には右のような売買契約が成立しているものではない。しかるに、訴外販売会社及び控訴人とも、それを承知のうえで、控訴人と訴外販売会社との間に右売買契約が締結されたように仮装したものということができるから、本件立替払契約に対応する売買契約は虚偽表示により無効であるということができる。

六  ところで、控訴人は、売買契約の虚偽表示による無効を抗弁事由として主張するのに対し、被控訴人は、売買契約の虚偽表示による無効をもって立替払契約の抗弁とすることはできないと主張するので、この点について判断する。

1  割賦販売法三〇条の四第一項は、割賦購入あっせん業者が、あっせん行為を通じて、販売業者と購入者間の売買契約の成立に関し販売業者と密接な経済関係を有することから、購入者に売買契約上の抗弁事由が存する売買契約には自社割賦と同様にあっせん業者に対しても抗弁が主張できるようにし、契約取引に不慣れな購入者を保護するという趣旨から、販売業者に対して主張し得る抗弁事由をもってあっせん業者に対抗し得ることを規定したものであると解される。そうすると、購入者が販売業者に対して有する抗弁をもって、割賦購入あっせん業者に対抗することが、抗弁権の接続を認める趣旨に反し、信義則上許されない場合を除き、同条は抗弁事由について特にこれを限定していないから、原則として、購入者が販売業者に対抗できる事由は、同条の抗弁事由となるというべきである。虚偽表示の場合について、より具体的にいえば、購入者の作出した一方的な又は積極的な関与に基づく事由は、抗弁事由に該当しないが、販売業者が、詐欺的言動によって購入者をして名義貸しをなさしめた場合などは、その名義貸しをなすに至った事情いかんによっては、虚偽表示を割賦購入あっせん業者に対抗することが、抗弁権の接続を認めた立法の趣旨に反し信義則上許されないものではないというべく、虚偽表示であれば一律に抗弁事由足り得ないと解すべきではないと思料される。

2  これを、本件についてみるに、前記二で認定のとおり

(一)  訴外井上は、高校を卒業したばかりで割賦購入あっせん取引に経験のない控訴人にその名義使用の承諾を得るにあたって、控訴人に対して、支払については訴外林が支払うし、支払が遅れたときには、訴外井上が間に入り訴外林に支払わせるようにするからと言って、控訴人を説得し、訴外林が支払わなかったときには控訴人が支払の請求を受けることなどは一切説明していない。そして、訴外井上が控訴人の名義使用の承諾を得てはいるものの、本件立替払契約の申込書は、控訴人に署名捺印も求めないまま訴外販売会社において作成している。

(二)  また、訴外販売会社は、訴外林が被控訴人から立替払契約の承認を得られなかったのは、訴外林が事故者(いわゆるブラック)のためであることを知っており、同訴外人が将来支払を滞る可能性が少なくないために被控訴人が立替払に応じなかったことは承知していたのに、納品済みの商品代金回収のために、職場の先輩の要求を断り難い控訴人にその名義使用を承諾させた。しかも、被控訴人の加盟店である訴外販売会社では、立替払の承認が得られない場合には、本件におけると同様、他人名義の使用をすすめ立替払契約を成立させて販売代金の回収を図っている事例がかなりみられる。

(三)  さらに、訴外販売会社は、被控訴人に対して、本件立替払契約に関して控訴人にのみ立替払契約に関する確認の連絡をとるよう連絡しており、これに応じて、被控訴人は未成年者が申込人の場合であれば保護者に確認をとるのが通常であるのに、控訴人の親権者であり本件立替払契約の連帯保証人でもある控訴人の母親に意思確認の電話を掛けておらず、控訴人に母親の保証意思を確かめているが、控訴人にのみ確認の電話をとるよう指示されること自体、立替払契約の前提となっている売買契約に問題があることが推知されるのに、被控訴人会社の従業員は、訴外販売会社からの連絡に応じた確認方法しかとっていない。

(四)  以上によれば、訴外販売会社はクレジットを利用して商品を販売しているのであるから、誠実に立替払契約申込手続きを代行すべきであるのに、引渡済みの商品代金回収のために立替払契約の仕組みを悪用して、未成年者でありクレジット利用が初めてでその仕組みを十分理解していない控訴人に詐欺的な言動で名義使用を承諾をさせ、虚偽の売買契約を仮装したものということができる。控訴人は、前記のとおり、名義使用を承諾し、被控訴人からの電話確認に購入した旨答え、また、控訴人名義で分割金を五回支払しているが、これらは、前述の訴外井上の欺罔的ともいえる言動によるところが大きく、訴外林が支払いをなすものと信じたことによるもので、要するに、本件においては、訴外販売会社が虚偽の売買契約を積極的に作出したのであり、控訴人の関与の程度は詐欺的言動によって控訴人名義の使用を余儀なく承諾し、電話確認に応答したものであり、消極的なものということができ、被控訴人が訴外販売会社からの連絡で連帯保証人欄の母親には意図的に連帯保証の意思確認はしないなどの事情に照らせば、控訴人が、虚偽表示の主張を被控訴人に対して主張することが、信義則に反するとはいえない。

以上によれば、控訴人は売買契約の虚偽表示による無効、すなわち代金債務の不存在をもって被控訴人に対抗でき、被控訴人の請求に対し支払拒絶できるというべきである。

七  次に、被控訴人は、再抗弁として、被控訴人が民法九四条二項の善意の第三者に該当するから、控訴人は被控訴人に対して虚偽表示による無効を対抗できない旨主張するので、この点につき判断する。

割賦購入あっせん業者が、販売業者と購入者間の売買契約につき民法九四条二項の第三者であるか否かはともかくとして、割賦販売法三〇条の四は、前記のとおり、信義則上同条の抗弁事由に該当しないと解すべき場合を除き、販売業者に対して生じている事由をもって、あっせん業者の善意悪意を問わずあっせん業者に対抗できるとしたものである。したがって、あっせん業者は同法三〇条の四所定の抗弁に対し、単に、善意の第三者であることを主張しても、有効な再抗弁となり得るものではない。割賦購入あっせん業者たる被控訴人の善意性は、控訴人が販売業者に対して有する抗弁権を、被控訴人に対して対抗することが信義則に反し許されないものであるか否かの一事由として考慮されるべきものというべきである。そして、控訴人が被控訴人に対して、虚偽表示による売買契約の無効を主張することが信義則に反するものでないことは前記認定のとおりである。

八  以上によれば、被控訴人の本件請求は理由がないからこれを棄却すべきところ、これを認容した原判決は相当でなく、本件控訴は理由がある。よって、原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松島茂敏 裁判官 大段 享 裁判官 田口直樹)

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